土曜日は、いい天気だった。
荒川に出向いたのはいつ以来だろう。
車に自転車を積んで、秋ヶ瀬公園の駐車場に向かう。以前荒川に来たときもそうした。なのにほとんどの記憶がないから役に立っていない。おぼろげな記憶は、秋ヶ瀬橋からではなくて羽根倉橋から公園に入ったこと。それから迷うことなく駐車場に車を置いた事は覚えている。
***
天気がいい。まきしく五月晴れ、湿度も低くて気温のわりに過ごしやすい。
まずは南へ走った。彩湖をひとまわりしようと思った。
秋ヶ瀬公園のなかを抜けていると、ドラムセットを組み上げ練習している人がいる。そうだったそうだった、楽器の練習──特にドラムが多いんだ。ドラマーは決まった駐車場で練習する不文律があるのか、まるで競い合うようにその一角で何人ものドラマーがテクニックを披露していた。
彩湖は自由な空間。
ランと自転車を多く見かけるけど、家族連れのピクニックも大勢いて、遊ぶだけからお弁当を広げたリバーベキューをしたり。もちろんバーベキューは家族連れだけじゃなく老若男女。池に目を向ければ──そう、名前は彩湖だけど、じっさいのところは池──、スタンドアップパドルのおじさん、ぷかぷかと風に吹かれるヨットはラジコン。
水は汚いけれどきらきらと光を受けて輝く湖面をながめながら一周し、戻ってまた秋ヶ瀬公園のなかを走った。
ドラムはセットが増え、競い合うテクニックもさっきよリレベルが上がっでいた。
一度羽根倉橋から街なかに出た。細い路地をほんの少し走ったところに舟和の工場があった。芋ようかんの舟和だ。
こんなところにあるのさえ知らなかったけど、前日に地図を見ていたら気づいたのだ。少し興味を持って検索してみると工場内の販売所もある。
そんなわけでGPS マップにインプットしてきた。
芋ようかんとあんこ玉を買った。
みんな大好きなんだろうね。客足が途切れない。僕はどちらかというと自分のなかでそれほど重要な位置を占めているわけじゃないから、「舟和で芋ようかんを食べた」という事実を得るようなものだ。──もちろん美味しかった。
お昼はサイクリングロードを外れた。
羽根倉橋を対岸に渡り、右岸(富士見市側)をしばらく走った。のちに土手を降り、田んぼのなかの里道を走る。田んぼは田植えを終え、まだ短い稲が風になびいていた。
農家レストランに行こうと思っていた。
農家レストランとは、農家が自ら生産した農産物や地域の食材を用いた料理を提供するレストランとしてさいたま市が定めている。市内にいくつかあるようで、そのうちのひだまりというお店に寄ってみた。
ここにはメニューはない。
ランチ、それだけ。
しばらく待つと、野菜がふんだんに使われた食事があらわれた。量は多くない。少食の僕にはかえってありがたいし、野菜好きの僕にはうれしい昼食だった。調理は素朴。でも美味しい。食後にコーヒーももらえて860円だった。
ひとつ寄ってみたからにはほかの農家レストランにも行ってみたくなった。調べてみよう。今日のように車に載せて秋ヶ瀬まで来てもいいし、この距離だったら家から自走してきたっていい。
食事を終えたら少しだけ北上して治水橋で再び左岸へ渡った。
治水橋の周辺は大半がグランドで、野球場やサッカー場が豊富にある。そしてその多くで野球やサッカーをやっていた。
僕は道から見えるそのひとつで立ち止まり、しばらく野球をながめていた。
内角のストレートを見せられたあとの縦に曲がるカーブに詰まったピッチャーフライで飛び出したランナーも刺され併殺。あっという間にチェンジになり守備チームがベンチに引き揚げてくるのを見て、僕もペダルを踏んで帰路のコースを走った。