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    • 2017.12.04 Monday
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    国境を越えて

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       もう昨年の話になってしまった。
       年の瀬の12月29日、冬の18きっぷを使った旅に出た。上越線に乗って国境を越える。雪が見たくなった。へぎそばを食べたくなった。
       じつは一昨年にも同じ旅に出ている。
       二回目だとかマンネリだとか、そんなことひとつも思わなかった。また行きたくなったのだ。5年前、それまで毎年続けてきたスキーをやめてしまい、雪を見る機会がなくなってしまったことも原動力になっているかもしれない。
       上野駅に立っていた。



       去年と変わったことといえば、高崎線の列車の大半が東海道線からやってくることだ。去年はすべての高崎線が上野始発だった。上野東京ラインが開業したのが2015年の春。今では仕事でも当たり前のように使っていて、この路線がないなど及びもつかないほどなのに、まだ一年にも満たないのだ。
       時刻表で朝7時台に高崎線の上野始発列車を見つけた。
       ――やっばり、出発は始発列車がいい。
       高崎行きは旅情感高い地平ホームからの出発。僕は18きっぷに入鋏するため、中央改札の前に立った。


      (地平ホームから出発の上野発高崎行き)


       この冬は暖冬だ。雪が極端に少ない。この年の瀬になっても営業を始められないスキー場もある。クリスマスのころだと怪しいところもあるけれど、年の瀬のこの時期でスキーができないというのは極端だ。季節に常識が通じなくなってきている。
       とはいうものの、やっと寒波が列島に降りてきて山や日本海側に待望の雪が降った。僕はこれで雪が眺められるだろうと期待に胸を躍らせていた。
       もう20年以上前、上越新幹線に乗ってガーラ湯沢ヘスキーに出かけたことがある。大宮で乗り、雲ひとつない快晴の景色を見て、その日の晴天スキーを期待した。
      「いい天気ですね、楽しみです」
       僕は検札に現れた車掌にそういった。初老の車掌は笑って、
      「向こうは雪ですよ、この天気ですと」
       といった。
       にわかに信じがたかったが、車掌は
      「上毛高原を通過するころには雪になっているはずですよ」
       と続けた。
      「上毛高原? トンネルを越えた越後湯沢じゃなくて?」
      「ええ、水上のあたりは群馬県ですけど、この季節は新潟県と同じような天気になります。高崎と水上じゃまったく天気が違うんです」
       新幹線は高崎を出ると長いトンネルに入る。榛名トンネル、中山トンネルを抜けて通過した上毛高原駅は、車掌の言葉はまさにそのとおりで、真っ暗で強く雪が降っていた。
       雪だな。後閑か上牧のあたりで雪になる――。
       僕はそう思った。20年以上前の上越新幹線の車掌との会話、それを僕はずっと覚えている。関東が乾いた晴天であればあるほど、山や日本海側は決まって雪。それも新潟県境の三国山脈を越えた先ではなく群馬県内沼田を過ぎたあたりから天気が変わる。そして今日もきっとそうだ。ちがいない。
       僕は高崎線のなかで得意げに誰かに教えたい気分になった(もちろん、そんなことをいきなり誰かに話すわけにもいかない)。終点の高崎から上越線に乗り換えた。水上行き、国鉄車両の115系。
       水上行きは混んでいなかった。この時期の普通列車は大半が18きっぷ利用者で、長距離をつなぐ大動脈路線は決まって混んでいる。僕が乗った列車が空いていたのは水上から先、つながる長岡行きがないからだ。清水トンネルを越える長岡行きはきわめて本数が少ない。僕もこれから乗るのだが、効率的な接続列車はこの列車の一時間後の水上行きだ。
       普通列車が利根川に沿った岩本駅に止まったときにはもう雪が激しく舞っていた。沼田よりも手前だ。僕はもう少し先だろうと思っていたのだけどずいぶん早い。あるいは今日は雪がずいぶん南まで降りてきているのかもしれない。
       沼田から後閑、上牧、そして終点の水上へと走る列車は大雪のなかを駆け抜けていった。その天気はさっきまでの関東平野の乾いた快晴など思い出せないほどの風景だった。
       終点の水上で乗客がすべて降りる。115系は行き先の方向幕をまわし、また高崎の文字を見せた。ほかの乗客同様、僕も改札を出た。
       昨年も同様、長岡行きの接続列車のひとつ前で来て水上の街を散策した。しんしんと降る雪のなかを40分歩いた。今日もそうしよう――僕は駅舎を出た。
       しかしようすがちがった。雪がしんしんと降っているのは同じなのだけど、雪の重さが違う。上着に落ちた雪はべたっとしていて、しばらくすると解けて上着に染み込んでいく。前年の雪は僕自身に積もっても解け出すことはなくて、ときどき手で払えばさらさらと落ちていった。今年は雪が湿っぼい。
       上着が、そんなこともあってあっという間に湿っぽくなり、肩やフードの雪がたまりやすいところなどもう冷たく湿っていた。そんなわけで街散策もそうそうにあきらめて駅に戻った。わずか10分。
       しばらく待合室にいたが、外気が入って寒い。売店が開いているけれど特に買うものもない。駅舎内から改札、ホームの写真を撮ったりして過ごしていた。
       そうやってあちらこちらとうろうろ楽しんでいるうち、向こう側のホームに新潟色の115系が止まっているのが見えた。――あれはこれから僕が乗るべき列車だ。街散策に出ているあいだか待合室で腰を下ろしているあいだにここ水上に着いたのだろう。改札の駅員に聞いてみた。もう乗っていいかと。駅員はいいよと答えてくれた。
       発車まで30分以上。僕は乗って待つことにした。
       跨線橋を渡り、手で扉をあけて車内に入る。どこでもいいよといわんばかりのがら空きの車内でボックス席を確保した。暖かい。窓が白く曇っている。MGとかブロアーとかコンプレツサーとか、そんな大きな音を発する機器が止まっているから車内はひどく静かだ。まるで窓の外を重々しく舞い降りてくる雪の音が聞こえそうだ。少しうとうとした。


      (重たい雪の降る水上駅)


      (ホームの除雪作業)


       一変したのは高崎からの普通列車が着いたときだ。地鳴りのように木造の跨線橋が激しく音を立てる。狭い跨線橋を、高崎からの普通列車からこの長岡行きに乗り換えるためわれ先にと駆けてくる。怒号も聞こえる。戦いだ。もちろんこの列車の座席を確保するためだ。あっというまに席はすべて埋まった。1分にも満たない、差にしてみればわずか30秒ほどだろうが、遅れた乗客はここから先立っていかなきゃならない。
       長い長いトンネルを越えて列車は新潟県に入った。土樽、越後中里、岩原スキー場前、そして越後湯沢。ここまで来ても列車は空く気配がない。僕も今日はさらに先へ向かう。越後湯沢で新幹線からの乗客を乗せた列車はむしろ混雑が増し、出発した。
       沿線のスキー場には雪が見えた。たくさん積もったようにも見える。これなら安泰かなあと思う。ひと駅ごとにひとりふたりと降りる客はいるけれど、混雑の決定的な解消にはならない。多くはうんざりした顔をしている。僕は塩沢駅で降りた。
       幸い、水上で降っていたような重たい雪はほぼあがっていた。傘がなくてもどうにかなりそうだ。塩沢の駅前から国道17号を目指して歩いた。
       途中、旧三国街道を横切った。宿場町だったここは往時をしのばせる景観を残そうとしていた。電柱は埋められ沿道の家々や店はきれいだ。歩いていて楽しめるけれど、かつての塩沢宿の建物が残っているようではなかった。新しく作る建物やリフォームをするさいはこんなイメージでとか指針が出ていて、それにしたがって建物を作っているのかもしれない。
       さて僕の目的はおにぎり屋にあった。地元産コシヒカリを使ったおにぎり。これを買いに行こうと塩沢駅から1キロ弱歩く。店は国道17号沿いにあるので、旧三国街道はそこそこ歩いてから離れ、国道17号へ出た。国道17号の歩道は雪が積もっていた。ここの歩道など歩く人が少ないのだろう。とはいえゼロではないようで足跡がいくつかついている。水分を多く合んだ重たい雪は、踏まれた足もとが解けて水たまりになっていた。僕は水たまりに足を取られないよう気をつけながら歩いた。ただすべての水たまりをよけるなんてできない。靴のなかに解けた水がしみ込んでしまった。
       おにぎりを買い込んだ僕は塩沢駅に戻った。1キロ弱のおにぎり屋への道の往復は、道がわからないことや雪道で歩きづらいことを加味して折り返し乗ろうとしていた上り列車の時刻までぎりぎりかもしれないと思っていたけれど、じっさいには10分と少し余らせられた。最近建て替えられたのか新しい駅には新しいベンチが置かれていた。僕はそのひとつに腰を下ろし、おにぎりのひとつを食べた。


      (旧三国街道塩沢宿)


      (おにぎりや)


      (真新しい塩沢駅の駅舎)


       へぎそばは、混んでいた。
       昨年がたまたまだったのかもしれない。さほど待たずに入った記憶があったのだけど今年はそうはいかなかった。30分くらい待った。入りロレジ付近で多くの人が待ち、誰もがうんざりとした表情だった。それでも待ったかいがあった。席に案内されるとそばとまいたけの天ぶらを頼んだ。おいしい。そばを食べてお腹が満たされると周囲にも目が行くようになった。越後湯沢の駅前という場所柄もあって、おそらく多くは観光客、首都圏の人が大半なのだろう。しかしスキー客はあまりいないようだった。荷物のようすや服装から見て違う。でもこの時期ゴルフもないだろうし、温泉だろうか。中高年のグループやカップルが多かった。
       満足して店を出た。雪はすっかりあがっている。駅の改札を18きっぷで入った。
       水上行きの普通列車、これもまた混んでいた。越後湯沢で多くの客が入れ替わったから僕はロングシートの狭い場所に座る場所を見つけた。しかし列車は発車間際になるとまたたく間に立ち客でいっぱいになった。
       上り線清水トンネル――ループ線のある見どころの路線ではあるけれど、窓の外は雪の壁、窓自体も真っ白に曇り、そもそも立ち客で窓も見えず。景色を楽しむどころではなかった。でも、それもまたよし。僕は土合からの下り坂で抑速ブレーキの音を楽しみながら、足もとからの暖かさも手伝ってうとうとしながら過ごした。沼田を過ぎるころにはいい天気が広がっていた。きっと一日じゅう、いい天気だったのだろうと思う。
      また、次の年の瀬も行くのだろうな――。


      (へぎそばとまいたけ天ぶら)


      (吾妻川と榛名山を望む夕日)

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