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    • 2017.12.04 Monday
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    メーターのマウントの爪が折れた

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       家の事情ゆえどうしても外保管になってしまっている僕の自転車の場合、やっぱり消耗品の劣化が激しい。タイヤなんか摩耗より先にひび割れで交換時期を迎えてしまうし、ワイヤー類もインナーが錆びたりする以前にアウターがひび割れを起こす。
       仕方がないことなのだろうけど、どうしたって特にゴム、プラスチック系は劣化する。──カーボンフレームって「カーボン」の単語が先行するように言われるけれど実態はカーボン繊維を織り込んだ樹脂、つまりはプラスチックなんだよなぁ。航空機のボディにも使われていて激しい気温差やつねに紫外線にさらされていても大丈夫というのはカーボン繊維が入っただけでまったく質が変わるってことなのかな。

       フレームの話はよいとして、弱いのがマウント類だ。ヘッドライト、テールランプ、メーター、それらのマウント類はある日突然ポキッと破断してしまう。これらって他のプラスチックやゴム系のものに比べてなぜか圧倒的に弱いように思う。ライト、ランプ類もみなプラスチック系でありながら、あまりカバーが割れるとか見ない。
       そして僕のメーターのマウントの爪が折れた。
       爪というのは、メーターを付けているときに固定している爪で、メーターを外すときにこれを押しながらスライドさせる。
       この前メーターを外すときにパキッといとも簡単に折れてしまった。

       結果的にいうとメーターを付けているとき、この爪が引っ掛かって固定されている状態なのでカチッと押さえるものがなくなってしまった。つまりは走っていて外れてしまう可能性もあるわけだけど、折れてしまった爪はもうどうにもならない。付け直しなどどう見ても無理だ。
       ただこれごときのためにマウントを買うのも馬鹿らしいと思ってしまう僕は相当の貧乏性なのだろう。マウントまでセンサーからの信号はふつうに来ていて、メーターさえ付いていれば万事なにごともなく動作するからだ。

       僕はマウントのセンサー部にかからないよう、真ん中あたりにひと巻きしたビニールテープを貼った。

       滑りにくくて少しでも押さえ付ける力がかかれば大丈夫かなと思って。
       今のところ結果は上々。
       ただし付け外しのときには少々やりにくさあり。何度か付け外しを繰り返すとビニールテープの粘着力も落ちるし、ずれたりするから押さえ付ける力も減るだろうな……。でもそうなったらまたビニールテープを取り替えればいい。大した話じゃない(苦笑)。



      クラリスと物欲

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         僕は自転車に対する物欲があまりない。少ない。たぶん、自転車を趣味とする人のなかでは異端だと思う。
         新しい自転車が欲しいという気持ちもなければ、より高級なパーツを入れたいという気もない。

         残念ながら趣味に没頭できるだけの実入りがないという物理的な事実がありながらも、加えてレースやイベントといった類に関心がないからだと思う。結果的に速く走る必要がないし長い距離を走り切る義務もない。そうなればより速く走るためのパーツや楽に長距離を走るためのパーツなどとは縁遠くなる。

         以前は新しい自転車が欲しくてたまらなかったときもあったし、パーツやアクセサリーに心躍っていた。
         そうなると雑誌も読むし、情報収集もする。
         物欲の収束と同時に、雑誌も手にしなくなり情報からも縁遠くなった。

         とはいえ電動だ11速だと話が進化しているのはなんとなく知っている。知っているだけで僕との距離感がわかっていないのも事実。
         今の僕の自転車は5600系105で組まれているけれど、105は今や5700系となり(これもかなり前だ)、ブレーキなどは互換性もないらしい。上のグレードにしたいという気もないのに加え、同等でも新しいパーツにしたいという気もない。だからきっと5600系の部品供給が終わったときにあわてて情報収集し始めるのだろう。

         唯一、去年興味を覚えた情報がクラリスというシリーズコンポだった。
         シマノのロード系最下級に位置するグレードで、いわゆる2000系。これまでは愛称が付けられることなく2200、2300とその系列番号でだけ呼ばれてきた。
         低価格の完成車に組み込まれるだけのコンポで、部品として購入して組み込む人はほとんどいないんじゃないだろうかと思う。自転車屋で「2300のでいいんだけど」と言って買い物をしようとすると一瞬の間とともに苦笑いをされるのだ。在庫として置いておいたところでパーツは売れることがないから、取り寄せるだけ店は手間なのだろう。

         クラリスは取り残された8速コンポ。これまで名の付けられたコンポの最下位ランクとされてきたsoraだっていまや9速、通販サイトに載せられた激安ロードの24段変速と書かれた諸元を見てああクラリスなのかなどと気づく。細かなパーツごとの諸元が記載されるような自転車にはクラリスは登場しない。

         8速──うちにかつてのsoraで組まれた自転車がある。妻が年に数回乗ろうかという意思を見せたときだけ出てくる。ときどき、ためしに僕が乗る。
         この自転車、部品が安いので助かる。8速用のチェーン、8速用のスプロケット……10速用と比べればときに倍の差だ。それ以外の部品も、前後ディレーラー、クランク、BB、STIもみな。
         調整だってしやすい。soraは調整が決まらないとかまれに目にすることがあるけれど、そんなことはない。自転車屋で僕の自転車が変速不良になり悩んで相談したときに、「105はこんなもの。きっちり調整を決めたければアルテグラ以上でないと」などというビックリ発言をされ、そのまま興醒めをして帰ったが、これがsoraやクラリスだったらどう言われたのだろうと思うとぞっとする。
         soraだろうがクラリスだろうがきちんと調整すればきちんと決まる。それがシマノの製品だ。グレードによる優劣はレスポンスや無理な操作(たとえば強いトルク中の変速とか)への適応だと思う。レースには重要だけどサイクリングしかしない僕には無関係。
         8速だときちんと調整しておけば出先で多少の障害があっても動けなくならない。スプロケの歯を例にするのもなんだけど一枚一枚の可動範囲にゆとりがあるから多少ずれたって問題ないということが全般に言える。
         チェーンだってママチャリなんかに使われているZチェーンすらも使える。切れることってそうそうないかもしれないけれど、10速チェーンだったらそこにスポーツサイクルショップがなければ出先ではなかなか手に入らない。

         そんなことを考えていたら、今の5600の部品が手に入りにくくなったらいっそ、8速のクラリスに載せ換えてしまおうかななどと思ったり(笑)。



        GPSマップ/その後

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           Uさんからありがたくも頂戴してしまったGPSマップを使い始めておよそ3カ月。

           それまではソニーの自転車ナビ、NV-U37を使っていたけれど壊れてしまった。
           僕のところにやってきたのはユピテル社のATLAS ASG-CM12というモデルで、その経緯は以前書いた記事/GPSマップのとおりで、Uさんには感謝しきり、したりないほどだが、現在も大活躍でありがたく使わせていただいている。

           僕の使い方としては、ルートラボでルートを引き、それをCM12に読み込ませて走行中表示するというもの、そして走行中はGPSログを取るというもの、このふたつ。
           CM12は、同じユピテル社の後発モデルにはない、バッテリーの交換ができる。このバッテリーもUさんから3つもいただいた。バッテリーは小さくて軽いものだからつねに予備を持ち歩け重宝している。後発モデルはバッテリー切れ対策としてモバイルブースターの携行を考えなくちゃいけないかもしれない。バッテリーはその3つそれぞれにもよるけれど、7時間から8時間もつと言ったところか。
           これはソニーのNV-U37でも同様で、おおよそ6時間から7時間くらいで切れてしまうようだったからそれ以上長いサイクリングをするときはどこかの区間は電源を切り、その日のGPSログ取得はあきらめる、という使い方をしていた。

           ソニーに比べるとずいぶんと画面が小さい。これによる地図の見づらさを最初は気にしたが、かなりマニアックなルートを引いたとしてもこれまでほとんど間違えることなく使ってきた。南房総の小さな林道にも迷うことなく入れたし、三浦の畑のなかの道も楽しめた。
           そしてソニーにありこのCM12にない機能がナビ機能だった。NV-U37でも同様の、事前にルートラボで引いた道をインポートして画面に表示するという使い方だったが、ルートを外れるときやコース変更が必要なとき、あるいは食事にどこか立ち寄りたいときなどナビ機能を使っていた。目的地とルートがはっきりしていてもおおよその到着時間が知りたいときにもナビ機能の力を借りた。
           これがなくなったので最初は不安を持っていた。しかしなければないでどうにかなるものだ……いや、どうにでもなるものだ。
           だって、ソニーのナビを使い始めるまで──ソニーのナビはちょうど一年で壊れたからおよそ一年半より前──、僕はGPSと地図を表示できる機器を持たずにずっと走ってきたわけだから。
           さすがにCM12で地図検索をするにはちょっときびしい。画面が小さく、ある程度周辺がつかめる縮尺にしてしまうと道がよくわからなくなるからだ。でも僕の場合その点に期待して使っていないし、輪行などで遠くまで出かけるときは必ず紙の地図も持っていくのでその用途で使うことはない。

           そういうわけで十二分に満足して使っている。これはバッテリーの持ちもよく交換できるうえ、僕の利用用途に合致していて便利だ。


          携帯電話のように電池交換が可能なCM12


          引いたルートを表示させて使用している

          ◆◆◆


           このまえのお正月、ものは試しでソニーのNV-U37に電源を入れてみた。以前もだましだましなら、あるいは電源を入れた直後であれば、画面のタッチパネルが反応することがあったのだ。使うつもりはなかったけど何カ月も電源を入れずに眠らせておいたNV-U37はどうなっているのか、興味を持って。
           ──結果、画面のタッチを全く受けつけてくれなかった。
           一度すら画面のタッチを受け付けないナビは無用の長物、ただの箱でしかなかった。

          自転車お守り

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             いつもサイクリングに一緒に行ってくださるMさんは熊本県のかた。
             このお正月に帰省したさい、僕とUさんにおみやげを買ってきてくれた。

             自転車お守り。
             ツール・ド・フランスの山岳賞ジャージを模した赤い水玉。



             いただいたのは三浦半島をサイクリングした日。一緒に走ったUさんは早速サドルに下げていた。
             僕も──と同じようにどこかに下げようとも思ったのだけど、僕のフレームには近所の第六天神の交通安全シールが貼られていた。信仰深いわけではないのだけれど、ふたつの神様が一緒にいることが悪いのかそうでないのかすら知識がないゆえ、いったんもらったお守りは下げずにそのまま持ち帰った。

             後日、第六天神の交通安全をはがした。
             貼っているあいだは事故もなく、無事自転車に乗れたことを感謝しつつ。

             さあ浮島神社の出番。

            ダイコン畑の丘陵をゆく/三浦半島サイクリング (2014-11-12)

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               湾岸線で東扇島から鶴見つばさ橋に向けて車を走らせていたとき、工場萌えの話になった。湾岸埋立地に広がる工場の設備が夜になると照明で照らされる──それはさながらライトアップのようで、見るものの心をつかんで離さないのだという。その魅力に取りつかれた人は美しさを競うように写真をウェブ上にアップする。数が増えればやがて工場を観賞するためのツアーが生まれ、深夜帯に客を乗せた観光バスが川崎に向けて出発するのだ。
               Uさんはある夏の夜、この大・京浜工業地帯に自転車を走らせた(ブログ:[2010/08/21]川崎臨海工業地帯ナイトライド(のはずが・・・) )。明け方におよんだそのサイクリングで見たものは、すべての意味ある設備と意味ある照明が作り出す美しさだという。その素晴らしさは「萌え」概念が存在するのもうなずけるし、きれいな写真に収めようとする動機も充分理解できる、あれはとりこになるに違いないものだと言った。

               そんな話をしながら向かっていた先は葉山だった。UさんとMさんとで三浦半島を走るサイクリングを企てて、ふだんなら輪行で向かうところを今日は車で走っていた。なぜ車かというと僕が寒いのが嫌だからだ。ひと月くらい自転車に乗れずにいたというMさんへの配慮として近場をとの考えのもと、そのうえ車がうまい具合に使える日だったことから、これは寒くないアプローチができると三浦半島を半ば強引に提案し計画した。
               本牧から磯子にかけての工業地帯でももう一度工場萌え話をし、逗子から葉山へ抜けた。止めた車から出ると日が昇っているとはいえまだ寒かった。車の暖かな空調でダレた体はその気温になかなか慣れなかったし、屋根に積んできた自転車のステムは触れないほど冷えていた。

              ◆◆◆


               僕はこのコースを何度か走ったことがある。つど、ちょっとしたコース・バリエーションの違いはあるけれど、葉山から丘陵部を越えて東の横須賀へと出て東海岸を南下、三浦から三崎をまわって今度は西海岸に沿って北上して葉山に戻るという時計回りのコース。朝の用事を済ませてから出ても夜に家に戻れるのと、車であれば寒くないことから、冬場の半日自由が利く日に何度か来たことがあった。
               だから走り慣れたコースのつもりで考えていたけれど、終えてみればこんなにも見逃しや見どころがあるとは予想しなかったし、季節々々ごと──それは春夏秋冬の四季ではなくもっと細かい、それこそ一月上旬ならではという──、その表情を変えて見せるのだということをあらためて思い知らされたのだった。

              本日のルート(GPSログ)


               葉山から横須賀への丘陵越えは退屈だった。僕にとってはまだ寒さのほうが勝っていたし、路肩の狭い道を朝のパンを買い出しに行く葉山の奥様方の車に抜かれなくちゃならなかった。抜かれるのはそれだけじゃない、わざと路肩ぎりぎりを走っているんじゃないかって思う京急バスや、朝から練習に励むたくさんの自転車にさえ抜かれなくちゃならなかった。無言のまま無音で抜かしていく何台もの自転車はまるで背中が「とろとろ走るんじゃねぇよ」と言っているように見え、「だから何っ?」などと神経のいらぬすり減らしをしたところで5秒後にはもう彼らは届かないところにいるのだ。どうせ僕は速く走ることなどできないのだし、きっと大方のロード乗りはそんなことまで思っていない、いちいちつまらない僕の気持ちの軋轢は一緒に走るふたりには言わずにおく。

               池上から急な下り坂を経て、汐入から横須賀へと出た。三浦半島の東西をつなぐ主要県道でありながら路面にはドーナツ状のくぼみが彫られているほどだった。そんな道でも乗用車や京急バスやロードバイクは日常のまま走り抜けていた。
               横須賀に出ると今度はただただ広さに驚く国道16号に出た。地元の埼玉じゃ国道16号などとても走りたい道ではないし、代わりの道もいくらでもあるので入り込むことがないけれど、ここでは道がこれしかないから仕方がない。さらに海側の道があるときはせいぜいそれを利用した。そうやって横須賀市街地を走りながら、僕らはうみかぜ公園に立ち寄ることにした。
               公園では消防の出初式があるらしく駐車場への出入りを制限しているようだった。僕らは自転車を押してわきの歩道から岸壁へ出た。園内に入れば岸壁では多数の釣りざおが海へ向かって並び、公園のバスケットゴールには何度もミドルシュートの練習をする若者がいる、ふだん通りの光景だった。
               ここで僕は岸壁からものの見事に海にコンデジを落とし(記事:カメラと縁がないということ……)落胆と周囲の注目を集めるわけだが、僕はこの公園に立ち寄ったのは初めてで、目の前の猿島や遠くに見える横浜や房総半島の景色を、釣り糸を投げ込む人たちのあいだに入ってのんびり眺めることも悪くないなと思った。




               国道16号は東京湾をえぐるように描く観音埼への地形にそって海岸線を進んだ。街路樹がヤシの木になれば海に来たという気分が高まる。海なし県埼玉に住む僕などはなおさらだ。伊豆半島の伊東あたりを行く国道135号もこんなような演出だったななどと思い出した。
               走水──ここまで国道16号としてやってきた道は、見上げた青看にも示してあるように県道209号に変わる。道なりは変わらない。さっきは道端に国道16号のキロポストもあった。1kmくらいだったように思う。走水の交差点がつまりは国道16号の起点である。それを示すものを何か見つけられないかと、赤信号で止まっているあいだに見回してみたもののなにもない。あるいは自転車を降りてくまなく探してみれば0キロポストがあるのかもしれない。いずれにせよ東京大環状250km以上の道がここからはじまる。
               もっとも何か見つかったとしても、カメラを取り出してぱっと写すことはできない。もうコンデジは手元にないのだから。

               僕らは観音埼公園で小休止したのち、地形に沿って一度浦賀に戻るようにぐるりと回り、また海沿いを久里浜に向けて南下した。開国橋を通過すると東京湾フェリーの金谷港行きが停泊しているのが見えた。
               フェリーターミナルにそれてみた。船はいい。旅に出発する非日常を演出してくれる。たとえ東京湾フェリーの35分の船旅でもそれは同様だ。
               フェリーはちょうど車の積み込みを始めたところだった。自転車も一緒に乗り込んで手すりにくくりつけられるのだ、そんな話をした。Uさんは都内の自宅から自転車とこのフェリーで東京湾を一周する二百キロを超える自転車旅をしている(ブログ:[2012/11/03]今度はまわれたよ東京湾)。もちろん愛用の小径車で……すごい人だ。Mさんは自転車でフェリーに乗るという旅のムードだけじゃなく、Uさんの東京湾一周に感化され話を聞いていた。




               野比で国道134号に合流したのち、有数の海水浴場を通過しながら三浦海岸を目指した。




               三浦海岸で国道134号を離れるとぐっと交通量が減り、周辺の雰囲気もがらりと変わる。この展開が僕は大好きだ。
               ここまであった住宅やコンビニやファミレスはまるでいつまでのものだったかと振り返るほどぱったりとなくなり、漁船の引き揚げられた小さな港とダイコンとキャベツの畑が延々と広がるばかりの風景になった。
               漁村にはダイコンが並び吊るされていた。僕ら3人はこんな風景のなかをのんびり走るのがいちばん性にあっているんだと思う。

               金田漁港を過ぎると三浦の台地へ駆け上がる長い上り坂になる。これをゆっくり上ると背後にこれまで水際伝いに見て来た景色が小さくなり、俯瞰できるようになった。高台から眺める東京湾は見事だった。とはいえ坂を上りながら余裕はなかった。すごい景色だなと瞬時振り返りつつもひたすら坂を上った。
               坂を上り切ると剣崎へ向かう分岐がある。僕らを追い越していく多くのロードバイクがまっすぐ坂を下る道を、僕らは左手への分岐に入った。



               僕らが走る高台は一面ダイコンだった。その葉で深緑色に染まった台地のなかの細い道を行く。見事なまでの染まり具合はダイコンの最盛期なのかもしれない。
               道すがらダイコンを満載した軽トラとすれ違った。
               Uさんがこのダイコン畑に興味を持ち、軽トラのおじさんと会話を交わした。ダイコンは青首ダイコンが中心だとか、港のほうに干してあったのは白首ダイコンだとか、こう見える畑は実はダイコンとキャベツを交互に植えている、などと畑のいろいろな話をしてくれる。そんなここは品川や新橋、日本橋まで一本の電車で日常的に行ける神奈川県なのだ。
               ダイコンは今が時期だという。あいだに植えているキャベツもそう時期を違えずに刈るらしい。僕が一面ダイコン畑だと思っていたなかにはキャベツ畑もあるということか……。軽トラのおじさんは畑を眺めながらうまそうに煙草を吸った。





               突端の高台に建つ白亜の剣崎灯台は青空に吸い込まれるようだった。あまりにも静かなその場所は僕らのほかには同じように自転車でやってきたカップルがいるだけだった。あれだけたくさんのロードバイクがこの台地に力を込めて上ってくるが、どうやらほとんどが下り坂に突入していってしまうようだ。確かに僕だってひとりで何度かここを走ったときも、同じようにそのまま下り坂へ突入していった。
               三者三様で写真を撮ったり景色を眺めたり灯台の周りを歩いてみたり好き勝手に過ごした。それこそそのままにしておけばきりがないほどだった。太平洋の海原と高台の壮大な景色──そこは対岸の房総半島をはっきりと見渡せ、東京湾へと出入りする船舶をまるで一手に掌握して眺めているような気分だ──、そしてこの白亜の塔を僕らがひとり占めにしているようだった。
               サイクリングの途中であることを忘れてしまいそうだから、ここでひと区切りつけるためにも集まって写真を撮ることにした。真っ白な壁をバックにセルフタイマーをセットした。



               三浦半島突端の造形は魅力的だ。複雑に入り組んだ入り江に小さな漁港や観光客はおおよそ知らないであろう海水浴場が閉鎖的に存在している。高台から見ているとそれらが瞬間瞬間で垣間見えた。
               剣崎灯台とダイコン畑を楽しんだわれわれは高台の坂道を一気に下った。そこは江奈の入り江だった。太平洋からほんの少し入っただけの小さな湾内は驚くほど静かだった。揚げられた漁船を片目で眺めながら入り江に沿う緩やかなカーブを気持ちよく駆け抜けた。

               県道は毘沙門湾を高台で駆け抜ける。つまりこの先また上り坂だ。
               ゆるゆると上り始めた道の先に、Y字に分岐した急な坂道があった。僕らはその道へ入った。
               現在の県道215号は毘沙門湾に面した断崖の高台を毘沙門トンネルを要するバイパスで貫いている。このバイパスができたのはいつだったのだろう。先日、たまたま昔のロードマップを眺めていたら、この毘沙門トンネルのバイパスはまだ描かれていなかった。

               急な上り坂を少し上ったところで、毘沙門湾に降りられる狭い道がある。海に下りてみましょう、とその細く屈曲したセメントで塗り固められたような荒い道に入っていった。
               見渡す限りの急峻な断崖は隆起した地層が垣間見える手つかずの地肌だった。浜はどこまでも岩場が続いているように見えた。人の生活すらないこの場には当然ながら電柱も電線もない。
               釣りなのか、散策なのか、それともこの自然景観を味わいに来たのか、10台より少し多いくらいの車が止められていた。多い台数ではないけれど、ここに来るためにあのわかりにくい分岐を入り、すれ違いも困難な狭く路面の悪い道路と、海岸へ出るスリップしそうな急な坂道を経てここにいるのだから、知っている人はよく知っているものだ。
               岩場の広いところに車を置き、ドアというドアを開けて気持ちよさそうにカップヌードルをすすっているおじさんが声をかけて来た。──どっから来たの?
               あれやこれやと話をした。おじさんは何をしに来たのか気になって何度か聞いてみたが、僕の聞き方の要領が悪かったようで的を射た答えは得られなかった。僕らが自転車を転がしたすぐそばに小さなラジコン飛行機が置いてあった。その主かもしれない。




               今日は城ヶ島で昼食にしましょうと話していた。しかしいつもながらの楽しい寄り道サイクリングですでに13時になろうとしていた。さすがにおなかも空いてきたし、元のルートに戻ろうと海からの急な坂道を押し歩いた。
               再び高台に戻り、さらに坂を上った。
               道はセンターラインがないほどだけど、昔からの道路で路線バスも走る。おそらくバス同士のすれ違いはできないからどこか決められたすれ違いの場所でもあるのだろう。バイパスのないころから走るバス路線が、そこの生活を支えるために路線を変えずに走っている。バイパスの道には集落はない。
               坂道にどこかの家から出て来たトラックが入ってきた。トラックの荷台には子供たちが乗っていた。どこへ行くのだろう。坂を自転車で何とか上る僕を見て笑っているようだった。彼らの笑顔がまぶしかった。
               高みに上れば上るほど驚くほどのダイコン畑が目に入った。いまや三浦半島でダイコンやキャベツを作っているところはごくごく少ないといわれるから、おそらく大半はこの一角に集まっているのだろうと思った。それほどまでの一面の畑だった。

               上ってきた道はやっとピークを迎えた。この先風力発電の風車が2機立っている宮川公園へ向けて畑のなかの細い道を下っていくことにした。
               海へ向かうような下り坂はさぞ気持ちいい、自転車乗りであれば一気に下ってしまおうとアドレナリンが出ようところだったが、その景観はまたしても僕らの足を止めた。
               ダイコンとキャベツの畑のなかを縫うよう、屈曲して下っていく細い道の造形美に思わず吸い込まれて見入ってしまった。僕が写真を撮り始めるとまた三者三様で写真を撮ったり景色を眺めたりを始めた。
               ──なんて楽しいサイクリングなのだろう。







               ようやく城ヶ島大橋を渡った。Mさんは有料道路の城ヶ島大橋を、自転車は無料でそのまま通過するのが気分いいと言った。僕はあまりの高みに目がくらむので道の中央に寄りながら走った。橋の中央で片側規制の工事をしていた。僕が峠の上り坂の途中でなぜかよく出会う片側規制を思い出した。今日だって橋の中央へ向かう上り坂の途中だった。
               ぐるりとループ線をまわりながら下り坂を行き、城ヶ島の先端にたどり着いた。食事を決め、腰を落ち着けたときはすでに14時を過ぎていた。
               途中、軽食の休憩などをはさんだわけではないから、みんな空腹だった。

               食後、城ヶ島灯台へ散歩した。城ヶ島全体が人を集めた時代は過ぎ、うら寂れた雰囲気は禁じえなかった。それでも眺められる太平洋の大海原は変わらず存在していた。
               うっすらと富士山や伊豆大島が見える。
               城ヶ島の観光資源はこれだけだともいえるし、これで充分だともいえる。誰もが海を遠く眺めている。






               後半は渋滞のまっただなかだった。
               いつもそうだ。たいていは車でアプローチしてしまう三浦半島だけど、帰りのこの渋滞に巻き込まれると三崎口駅から輪行してしまうほうがアリなんじゃないかと思う。そして来れば寄ってみようとルートを引く荒崎や佐島なども渋滞にうんざりしてキャンセルしてしまう。いつだってそうだ。
               渋滞は城ヶ島大橋と三崎漁港から来る道が合流するあたりから始まり、国道134号に合流する引橋、三崎口駅、荒崎への分岐合流、高速道路への右折がある林交差点、佐島への分岐合流などなど、流れたり止まったりを繰り返しながらダラダラと進む。全体的に見れば大渋滞だ。よくここで車を運転する気になるななどと思う。
               そして案の定、今日だって荒崎や佐島を走ることはやめてしまった。

               葉山町に入ればなぜか車も流れ始める。
               国道134号は海沿いに出て、江の島が遠くに望めた。空はずいぶんオレンジ色に染まっていて、一日サイクリングを楽しんだ気分と疲労を鎮静するにはいい絵だった。夕暮れに染まる景色のなかを特にしゃべることもせず考えることもなくシンプルかつだらだらと流せば身体も感性もフラットになる。海という情景がさらに相乗効果を生んでいた。メロウなジャズをBGMにするよりも単純でわかりやすい。
               夕暮れに間に合った。
               駐車場で自転車を片づける前に浜の夕暮れを眺めることにした。
               冬の夕暮れの海は寂しかった。人が少なく寒々しく見えた。僕らからすればこの時期でも海に入ることに恐れ入るカヌーイストもすっかり片づけを終え、残っているのは浜を散歩する人くらいだった。
               夕焼けに富士山が浮かび上がった。江の島も見える。

               また来てくださいね──城ヶ島の食堂のお姉さんに言われた。そうだ、また来よう。



               ※今回は(今回も……いつもながら)例によってお二方からの写真も使わせていただいております。

               ご一緒いただいたお二方のブログはこちら。

                ■Uさんのブログ:チャリでチャリチャリいくよ〜
                ■Mさんのブログ:mpmg69

              カメラと縁がないということ……

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                 ぼちゃッ──鈍い、ちょっと低めの音とともに、僕のカメラは岸壁から海の底へと徐々に見えなくなっていった。おそらくカメラのなかにあったのだろう空気がぶくぶくぶくと小さな気泡となって浮き上がってきた。そしてやがてそれも消えた。
                 僕は今日、サイクリングの途中、横須賀の岸壁でカメラを海の中に落としてしまった。フェンスに竿を立てかけていた周囲たくさんの釣り客が、カメラと一緒に僕の落胆に沈んでいく声を聞き、瞬間視線を集めた。




                 どうもコンパクトデジカメに縁がないのか、一昨年、昨年とカメラを失い、結局今年もだ。
                 一昨年、カメラを落としたことに気づかず、どこで落としたのか、見つけることもできなかった。
                 昨年は自転車で走行中に落とし、拾いこそしたものの、まったく動かない黒い箱になってしまった。
                 そして今年。

                 これだけ不運に恵まれているのは身のまわり、カメラだけだと思う──。

                シューズカバーを買う

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                   これだけ寒がりなのにシューズカバーを使わずに過ごしてきた。
                   これまで使ったことがなかったというわけではなくて、以前使っていた。だからその有効性は十分わかっていた。なくなってから買うタイミングを逸していただけだ。ひたすら寒さを我慢しながら。
                   通販でまあまあ手頃なものを見つけた。Amazonと楽天とYahoo!ショッピングで売られていた。見るとAmazonでも送料がかかる。宅急便なら500円だそうだ。メール便でも対応していてこちらは200円。メール便で構わないし安いほうがいい。が、Amazonではメール便に対応していなかった。

                   楽天は嫌だなぁと思った。一度買い物をするだけでわんさとメールが届く。知らない店からもやってくる。配信停止の手続きを何度取っても止まらない。それに懲りてしまいもう何年も楽天では買わないし、使っていたメールアドレスはほぼ捨てアカ状態になっている。
                   じゃあヤフーならいいかというと、考えてみたら似たようなものだ。一度買ったらその店から延々と毎日のように届くメール、配信停止も受け付けられない。そしてこちらのメールアドレスもヤフオクくらいでしか使わない半捨てアカ状態。
                   そういや楽天に登録しているのもヤフーのアカウント。開けてもいないけれどきっとすごいことになっているんだろうと想像する。

                   買い物はYahoo!ショッピングで買い、メール便にした。そのときにログインしたらば未読メールが5千通以上だった。──苦笑。
                   僕は注文メールだけ確認して、画面を閉じた。



                   mcnシューズカバー、2,800円なり。プラスメール便送料200円なり。

                  18きっぷ 2013冬/完了

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                     冬の18きっぷ、今日で利用期限が終わる。今回、なんとか使いきった。
                     なんとか──という表現がぴったりだった。計画が5回分きちんと立っていないと利用期間が最も短い冬の18きっぷを使いきるのは難しい。
                     主には輪行サイクリングに使いたいけれど、寒い季節は億劫がって自転車を引っ張り出そうとしない自分がいるし、期間中には年末年始がある。ふだんとは違った混み方をする年末年始(特に30、31と正月三が日)は時間帯や列車を見極めないと輪行しようという気にならない。
                     今日で利用期限が終わるけれど、あすからの土日月の三連休まで使えたらずいぶん計画も変わっただろうな。

                     輪行サイクリングが房総、鹿島、西伊豆の3回、鉄道旅が宮城・山形をまわった1回×ふたり分。



                     春は暖かくなる。自転車に乗る気持ちも前向きになる。春の18きっぷは利用期間も冬より10日長い。計画が立ちそうかくらい見極めて、そして前向きに買う方向で──。

                    駅そば/熱海駅

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                       この前の西伊豆サイクリングの帰り、前から気になっていた熱海駅の駅そばに立ち寄った。
                       熱海駅には1番線のホーム上と、4,5番線のホーム上に駅そばがあって、それぞれ経営が違うらしい。我孫子駅のように複数のホーム上にいくつかの店舗を構えても同系列であるというほうがよく見るように思う。名古屋駅に限っちゃ、あれだけたくさんの店舗にあってみんな「住よし」だし。
                       で、この熱海駅の駅そば、4,5番線のホーム上にあるほうは以前立ち寄ったことがあった。1番線のほうは入ったことがなくて、伊東線に乗り換えをしたときに店構えが違うことに気づき、それから気になっていた。

                       サイクリング中、一日おにぎりをだらだら食べていたおかげで、さほどおなかはすいておらず、かけそばにした。




                       どうやら僕は駅そばが好きらしい。味とか麺がどうとかつゆはなんだとか云々語れるようなうんちくはないけれど駅そばを見ると食べたくなる。とはいっても全国の駅にあるそば屋を制覇しようという気概はないし、見つけて食べたいと思ったときが食べるときだ。サイクリングにも似ている。僕は少なくとも今は自転車で日本一周したいと思わないし、有名峠をすべて征服したいとも思わない。大阪まで無休で走ろうなんて考えることもないし距離や標高で達成感を感じることもない。駅そばは食べたいところに寄る、サイクリングは出かけたいところに行く。目標がなくつまらない楽しみ方だといわれればそうかもしれないと思う。

                       3回食べるとたまごがサービスされるんだと。ゆえに食券はスタンプを押して返された。

                       結構好き。食べた日がかけ離れているから比較は無理だけど、4,5番線のほうようりも個人的には好きかも。
                       満足。

                       あとこの近辺じゃ、食べてないのは伊東駅と沼津駅だなぁ。三島駅にも駅そばあったかな?

                      西伊豆海岸線南下 (2014-01-04)

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                         西伊豆には独特の魅力がある。関東近県でもこの雰囲気を持つ場所はない。独特の風土が育まれ今がある。この雰囲気に触れたくなることがたびたびある。
                         しかしながらこの西伊豆のサイクリングは計画が立てにくい。それはこの地に鉄道が走っていないからだ。伊豆半島は付け根に東海道線が、東伊豆をまわって南伊豆の下田まで伊東線と伊豆急が、中伊豆の修善寺まで伊豆箱根が走っているだけで、西伊豆にはまったく鉄道が通じていない。おかげで、輪行で出かける僕のスタイルの場合、西伊豆からどこかの鉄道駅まで出なくちゃならない。
                         そしてきっと、この鉄道がないということが、先に触れた独特の風土というものを作り上げたんじゃないだろうか、と思う。

                         僕は東京駅から沼津行きの普通列車に乗っていた。JRになり熱海駅を境に東日本と東海に分かれた今、沼津まで行く普通列車はかなり少なくなってしまった。今日は沼津から走り始めようと考えていることもあり、好都合な列車だった。
                         15両編成の東京発の普通列車から結構な数の乗客が降りたように見えた。東京からの直通列車でなければ熱海発で6両や7両、ひどいときは3両なんて列車もあるわけだから、このあたりJR東海に冷遇されているんだななどと思う。

                         沼津駅は輪行で何度か使ったことがある。サイクリングの起点として、下車駅として利用したのは初めてかもしれない。
                         いつも気になっているホームの駅そばを食べたかったけれど、今日の行程が長いことからあきらめていた。今朝は東海道線の列車内で、駅前のコンビニで買ってきたパンを食べてきた。
                         終着沼津で下車し、改札を抜けると駅前に蒸気機関車の動輪のモニュメントがあった。C58機のものであるようだけど、なぜここにあるのだろう。駅前にこんなものがあることに今まで気づかなかった。きっといつもここ沼津駅をサイクリングの終点とし、列車の時刻を見てあわてるように自転車をパックして改札をくぐってしまっていたからなのだろう。
                         自転車を組み上げ、なにか持ち歩ける補給食みたいなものがあればと駅のなかのコンビニを覗いたのだけど、適当なものが見当たらなかったのでそのまま出発することにした。



                        ◆◆◆


                        本日のルート(GPSログ)

                        ◆◆◆


                         西伊豆は、鉄道も通っていないし、街も港にあわせて点在するだけだから何か食べ物を持っておこう。途中のコンビニで買っておこう。記憶では確か三津の水族館近くにセブンイレブンがあったはず──。
                         ふだんは手持ちの食事のことをまったく気にせず、おなかがすいて動けなくなってしまうことによく陥るくせに、今日はなぜか慎重だった。動けなくなってもすぐに逃げ出せる鉄道がすぐそばにないから、心理的にそうさせるのかもしれない。

                         沼津駅前からの国道414号で南下し、口野の交差点から県道17号沼津土肥線に移った。西伊豆の海岸線をぐるりとまわる県道で、三津、西浦、大瀬崎、井田、戸田を経て土肥へ向かう。
                         三津のセブンイレブンは記憶通りあった。携帯しやすいシリアルバーみたいなものがあればいいなと思ったけれどなかった。あるのはカロリーメイトぐらいで、サイクリング中にカロリーメイトを食べるのは嫌だからおにぎりを2個買った。お手製トップチューブバッグに無理やりねじ込む。無理やりだからファスナーは閉まらない。

                         海越しに富士山が姿を見せた。埼玉の自宅のベランダや通勤電車のなかから見える富士山に慣れているものだから、ひどく大きく見えた。季節柄、雪が山全体を覆っているかと思っていたけれど、そうでもなかった。雪渓のように何本もの筋が見えた。雪が少ないのか。
                         大瀬崎までは起伏もなく、海と海越しの富士山を見ながら進む。交通量は少なくて走りやすい。小さな港ごとの入江やリアスの地形に合わせた道路は屈曲が多く、道も狭くて車には時間がかかるから地元の人以外は選ばないのだろう。みかん色の東海バスとすれ違った。このバスとバス停を見ると西伊豆に来たなと思う。

                         大瀬崎で県道17号は坂を上る。坂の途中に富士山を海越しに大きく望むビュースポットがある。立ち寄ろうか考えたのだけど面倒になってやめた。富士山はしばらくの間見えるし、僕は展望台から見るよりもこの道と西伊豆の地形、海と富士山をセットで見るほうが好きだ。だから道を走りながら眺めているほうがいい。



                        ◆◆◆


                         大瀬崎に向かって上った坂道は、さらに上り続けた。井田に向かい上り続け、高くなった日差しを受けていると汗が出てきた。井田から戸田に向けて今度は上った分をすべて下る。下りでは上りでかいた汗が冷やされて寒くなった。寒いのを我慢しても汗で湿った服を乾かしたほうがいいのかわからなかったけれど、ファスナーを開けて風を通しながら走った。おかげで余計寒くなって震えるほどだった。
                         戸田まで下りて来た。街はゴチャっとまとまっていた。みかん色の東海バスが止まっていた。僕がこの街に来るといつもここにバスが止まっている。


                        ◆◆◆


                         西伊豆の街は港とともに存在するので海抜0mに近い。ここ戸田もそう、次の土肥も同様。街と街のあいだは高台が海岸線まで迫る絶壁のため、道は高台まで駆け上がる。したがって西伊豆の道を走ることはアップダウンの繰り返しになる。これは東伊豆でも同様で、伊豆半島の海岸線を走る上での宿命になる。
                         そんなわけで僕は戸田をあとにして坂を上っていた。坂を上れば海岸線が遠く見通せるから気分がいい。坂を上ることはしんどいしスピードだってひと桁まで落ち込むけれど、その気分のよさで相殺される。
                         自転車乗りも少なくない。しょっちゅうすれ違うというほどではないけれど、何組かの自転車にすれ違った。上り坂をゆっくり上っていた僕をこんにちは〜と言いながらダンシングで軽快に追い越していった自転車もいた。
                         ここらあたりで坂もピークだろうと思い自転車を止め、しゃがんで買ってきたおにぎりを食べた。昼が近くなりおなかもすいてきたのだ。服のなかに風を入れた。ここまでの上りでかいた汗が乾くといいなと思った。
                         あらためて見通すと断崖の海岸線に張り付くように道が連なっていた。そのカーブひとつひとつが興味をくすぐった。僕はおにぎりふたつを食べるあいだ、目の前を走り抜けていく車がきれいにカーブを抜けていくさまを眺めていた。

                         坂を下ると土肥の街だった。
                         清水とここ土肥を結ぶフェリーも発着するし、土肥金山などの観光資源もあって街は車が多かった。
                         土肥金山近くのファミリーマートによって手持ち用の食事を買うことにした。持っていたおにぎりは食べてしまったし、この先は僕にとって未走区間でもあったから事情もわからなかった。ここも残念ながら携帯できそうな補給食はカロリーメイトぐらいしか見つけられなかった。仕方がないので僕はまたおにぎりを買った。

                         道は土肥から南、国道136号になる。
                         修善寺からかつての西伊豆バイパスで土肥に出てきた国道が、そのまま海岸線を南下する。
                         宇久須、安良里、田子などと何とも魅力的な地名を通過する。この土肥から南を走るのが初めてだったので楽しみにしていた。その先の堂ヶ島、松崎といった場所も未訪で期待がふくらむ。知らない土地で食事をする場がなくてもよいようにおにぎりも買った。飲みものもまだある。

                         道はここまでの県道17号同様、街に出ると海抜0m近くまで下り、街と街のあいだでは海岸線に迫る断崖を坂で駆け上がった。
                         そしてやはり国道だった。県道17号と違い道路もほとんどの場所で高規格の舗装がなされていたし、何と言っても交通量が圧倒的だった。きっと西伊豆の交通網はこの国道136号を中心に形成されていて、三島や沼津から中伊豆をたどって修善寺へ、そこから西伊豆の土肥に出て海岸線を南下するというルートが軸になっているのだと気づいた。地元の車、観光で来ている他府県ナンバー、物流を担っている大型車、あらゆる車が行き来した。

                         僕は今日のこのルートを準備したさい、大きな失敗をしていた。深い考えもなくルートを引きGPSマップに仕込んできたために、多くを国道136号のバイパスを使うルートとしてしまっていたのだ。途中の街々はみな漁港を中心とした入江に広がる街で、港周辺は道が入り組んでいた。西伊豆の主要幹線である国道136号はそんな街なかの道では交通量をさばき切れないのだろう、どこの街も山側を一直線に貫くバイパスができあがっていた。
                         街の手前の分岐──それらはどこもカタカナの「ト」の字を上下反転させたような交差点だ──、そこは間違いなく街の中心へ向かう旧道であるのだろうと直感的にわかった。でも残念なことに紙の地図は持ってきておらず、GPSマップでの表示だけでは道をつないでいく自信もなく、直進する国道バイパスルートを選択した。
                         街と大きな海をバイパスの高みから眺め、街を過ぎるとまた右手から道が寄り添ってきて、合流した。──さっき別れた道だ……僕はそのたびに舌打ちをすることになった。
                         とは言うものの街と海を一望できる機会はあまりなかった。なぜならバイパスは大きな口径のトンネルを何本も越えて断崖のなかを貫いていたからだ。まるで上越新幹線のようだ。高崎を出て、上毛高原、越後湯沢、浦佐、長岡と駅以外の部分はみなトンネルで貫いているのを思い出した。
                         そんなわけで魅力的な名前の街は、その空気に触れることなく行き過ぎた。これはきちんとルートを引き直してそれぞれの街をまわる再訪をしなくちゃいけないな、と思った。

                         堂ヶ島は西伊豆屈指の景勝地だった。海岸線に張り出した特徴的な断崖と、いくつかの島々が浮かんで見えた。道路には止める場所を探す車が何台もいた。
                         僕もその景観を見ようと道路の反対側へ渡ろうとするのだけれど、なかなか車が途切れなかった。渋滞するような交通量ではないけれど、車はつながって走っていた。これだけどこから集まってきたのだろうと思った。それでも途切れるタイミングはあり、合間を見て道路の反対側へ渡った。ちょうど、多くの人を乗せた観光船が出て行くところだった。




                        ◆◆◆


                         やがて松崎の街に入った。松崎は僕もその地名を知っていた。訪れたのは初めてで、そこは昔からのナマコ壁の残る古い街並みだった。川には桜並木があり僕はそれに沿って街へ入ってみた。
                         観光地ゆえ新しく作られた建物にナマコ壁“風”の施しを加えたものもあったけれど、漆喰を盛り付けた本来のナマコ壁が多く残っていた。僕は自転車を降り、カメラを片手に写真を撮りながら街を歩いた。
                         街を散策しているうち、小さな港に出た。静かな漁港だった。正月の静かな時間が流れ、岸壁はがらんとしていた。そのひと気のない岸壁で小さな男の子がお父さんと一緒に凧あげをしていた。
                         そういえば松崎には西武系プリンスホテルがあった。来たこと見たことがあるわけじゃないけれど、どこかのプリンスホテルに入ったとき、全国のプリンスホテルのポスターに載っていた記憶がある。そのプリンスホテルは今では伊東園になっていた。






                        ◆◆◆


                         僕は今回の行程で、食べるところがなかったり食べものが手に入らなかったりするのではないかと心配した。だから小さなバッグにはおにぎりを詰め、食べてしまえば買い足していた。でもそんな心配をする必要もなかった。むしろ未訪の土肥から南、道路が国道136号になってからは、街を通過するたびにコンビニがあった。堂ヶ島は観光地で食堂にもこと困らないようだった。松崎の中心街に来れば、コンビニどころか大型スーパーやドラッグストアまであり、僕の想像とは全く違った場所だった。
                         これだったらいちいち携帯する食事など買わなければよかった、と思った。実際、土肥のコンビニで買ったおにぎりにはまだ手を付けていなかった。

                         街の散策を終えたら、この先、松崎からのルートを選択する必要があった。
                         時間も日の長さも許すならば、このまま南伊豆をまわり波勝崎や石廊崎を経て下田に抜けたかった。でもそのルートはここからさらに60km前後あるようだった。僕のポテンシャルや、寒くなってからあるいは日が傾いてからも走る気持ちの持続といったことから考えて、それはノォだと判断した。
                         ならば波勝崎や石廊崎には寄らない、国道136号をまっすぐ進み下田に抜けるルートがある。あるいはこのまま内陸に抜け、国道414号に合流して下田に向かう県道15号ルートがあった。
                         国道136号だけで下田へ向かうルートは距離がわからなかった。まっすぐ、とは言ってもあくまで道なりにという意味で、地図で見る限り道路はかなり屈曲しているようだった。そうなると波勝崎や石廊崎をカットしたところでどれだけ距離が縮むだろうか。
                         県道15号で内陸を経由するルートは40km弱くらいだった。それにもうひとつ魅力を感じることがあった。このルートを使えば伊豆急の稲梓駅を通る。稲梓駅は無人駅とされてしまった駅で、おそらく伊豆急で最も乗降人員の少ないこの駅に一度立ち寄ってみたいと思っていたのだ。県道15号を経由すれば下田へ行かずともこの稲梓駅へアプローチできる。国道136号を使うと一度下田を経て北上して稲梓へ出る必要がある。それも距離を損した気分になるから国道136号を使うなら稲梓からの輪行は気持ちが盛り上がらない。

                         そんなわけで僕は松崎から川沿いに県道15号を内陸に向かった。川端には無数の桜の木が植えられていた。これが咲くときっとすごいに違いないと思った。そしてこれだけの桜だからピーク時には訪れる車の数もすごいんだろうなと思った。そんなことを考えながら路面のきれいな県道15号を進んだ。
                         県道15号は、伊豆によくある雰囲気の、海ぞいから内陸へ向かう道路だった。河津から内陸へ向かう県道14号にも似ていた。伊豆らしい道で楽しかった。こうみると、僕はまだまだ伊豆で走っていない道がある。海沿いから内陸へ向かう県道はいずれもそうだ。特に西伊豆に多い、これらの県道を走りに来ないといけないな、と思った。

                         ずいぶん坂を上るなと思ったら、峠だった。実際の峠は越えずにトンネルで抜けているのだけど、峠があるとは思っていなかったから意外だった。峠らしいものが何かあるわけでもなく、眺望が優れているわけでもない。坂を上り続けた道路のピークがここだった、という程度だ。
                         峠を下ると中伊豆を縦に貫いてきた国道414号に合流した。かつて中伊豆経由で下田まで走ったときに通ったルートだ。国道414号に入ってから数キロ、「稲梓駅」と書かれた小さな看板を見つけ、今日のサイクリングをここで終えた。



                        ◆◆◆


                         国道414号から見ると、伊豆急ははるかな高みのうえをガーダー橋で渡っている。
                         稲梓駅はその高みのうえにあるため、驚くような急坂を上り、さらには階段を上がっていく必要があった。バリアフリーという言葉からはかけ離れた駅へのアプローチは行くだけでも大変そうだ。僕は最後には自転車を担ぎ階段を上がった。薄汚れた駅舎で自転車をパックした。
                         駅には列車接近の自動放送があった。それとは別に駅員による放送があった。当然駅員無配置だから、伊豆急下田駅か河津駅から放送をしているのだろう。

                         伊豆急の駅にしては珍しい観光地のない駅は、そこだけが切り取られた空間のように浮いていた。国道414号を走る車の音もまったく聞こえないからいたって静かだった。結局、最後まで列車を待つのは僕ひとりだった。駅の閑散状態を喜ぶつもりではないけれど、ひとり静かに列車を待つのは嬉しかった。列車は予想しなかったリゾート21がやってきた。




                        ◆◆◆


                         波勝崎や石廊崎を訪れられなかったのは残念だった。再訪の計画を立てようと思う。それにしたって鉄道がなく不便な西伊豆のこと、どうまわるかはきちんと計画したほうがよさそうだ。立ち寄り重視でいろいろ見てまわるのなら途中一泊をはさむべきかもしれない。時間を充分に使うなら、日の長い夏の一日を使えば何とかなるかもしれない。
                         今日、途中で気になった県道たちも行ってみたい。──ただ、僕にありがちな、計画に盛り過ぎて全体が破たんするってことにならないよう気をつけないと。

                         河津の停車時間に買った缶コーヒーを飲みながら窓の外を眺めていたら、暮れそうな空のもと、伊豆大島がうっすらと見えてきた。


                        ◆◆◆


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