遠く駿河湾や富士山を望み、道路自体も尾根伝いを走っていくため、道路自体の景観にも周囲の眺望にも優れた伊豆の名道、西伊豆スカイライン。前後が主要箇所に直接つながっていないため、伊豆スカイラインのような混雑もない。かつては有料道路だったこの道も今は静岡県に譲渡されて県道になっている。静岡県の有料道路は枠ではめたように自転車にゲートを閉ざしているが、無料化、県道となったことにより自転車も通行できる道になった。
場所が場所だけにその存在も忘れかけていた。BS日テレ「峠 [TOUGE] (#033)」でついこの前取り上げられたときにこの西伊豆スカイラインを思い出した。
行ってみようじゃないか。
西伊豆スカイラインが有料道路だったころの道路地図
ほかにも「西伊豆バイパス」や「中伊豆バイパス」など
なつかしい面々が顔をそろえる
西伊豆はなかなか輪行でアプローチしにくい。そもそも鉄道がないからだ。
朝、早々にアプローチして、ロング覚悟を決め込むか、土肥から清水に向かうフェリーをうまく使うか、といったところ。
僕は春の18きっぷを片手に、伊東駅へと降り立った。
本日のルート(GPSログ)
伊東駅に着いたのが9時前。これでも始発での乗り継ぎだった。やっぱり埼玉から伊豆は遠い。これよりも早くスタートしたいと思うなら、新幹線を使うほかない。
伊東駅を起点にしたのは、18きっぷが生かしきれるからという理由だけだった。
さらに先へ足を伸ばせば伊豆急への乗り越しが発生するし、修善寺起点にすると今度は伊豆箱根がかかることになる。せっかくの18きっぷだからとケチ心が出たのがいけなかった。走った結果、修善寺まで行くべきだったか──と後悔することになった。
伊豆半島を横断するようにまず冷川峠を越える。ここは以前にも越えたことがあり、この峠があることも、ある程度の要領もわかっていた。
しかしその先だ。湯ヶ島へ抜けるのに国士峠という峠を越えなくてはならなかった。わさび田のあいだを上っていく道は静かな山あいを進んでいく山里の景観豊かな道だったが、全体のコースから考えてなにぶん上り坂の負荷が僕には高すぎた。冷川峠から一度大きく下り、さらなる上り返しだったことも疲れを倍増させた。
さらには国士峠を越えるとまた下り。下って湯ヶ島の町に入った。
そこから今日の目的西伊豆スカイラインへ向かうため、風早峠に向かった。
本来、風早峠から船原峠への県道411号は西伊豆スカイラインには当たらないが、この県道411号から西伊豆スカイラインの現在の姿である県道127号へと貫くルートがよりよいルーティングだろうと考え、このコースを選んでいた。
しかしながら県道411号の南端が風早峠である(つまり「峠」である)という認識がなく、ここでもまた想定外に厳しい上りに苦しめられることになった。
だから結果的に西伊豆スカイラインに到着するころにはもう体力をほぼ使い果たしてしまっていたのだ。
冷川峠、国士峠と越えてやっとたどり着いた風早峠
とは言いながらも、この風早峠のT字路交差点が見えてくるとその天空の道路が近づいてくる予感でゾクゾクしていた。交差点と空しかない景観が目の前に広がって、この先の道が心に映りこむように感じた。
あえて言うなら、西伊豆スカイラインを走るならこの県道411号もぜひセットにしたほうがいいと思う。
尾根伝いを貫く道路としてこの県道411号も西伊豆スカイラインと引けを取らない、あるいはさらに上を行く美しさを持つ。西伊豆スカイラインの県道127号が曲線的美しさの連なりであればこちらの県道411号は直線的美しさの連なりとでも言うか。
風早峠で一度自転車を止め、ここからの景観とこれから走るべき道の連なりをしばし眺めた。
風早峠
写真にうまく写しこめなかったが駿河湾まで望む
これから走る道、県道411号
県道411号はここまで風早峠に来るのと同じようにしばらく上りを続けたあと、一転下りに転じた。ぐんぐん自転車はスピードを上げ、気温もそれほど上がらなかったうす曇の空の下では正直寒かった。
しかし下りはそれよりも僕を不安にさせることのほうが大きかった。
いったい、どこまで下るんだろう──。
さっき目の前のナビに表示された標高は800m。しかし道路は高度を下げ続け、あっという間に標高は700mを切った。そしてさらに標高は下がり600mに近づこうとしているのが読めた。
──この先の達磨山って標高900mに及ぶんじゃなかったっけ。
僕は下りながらそれを思い出し、ちっともうれしくなくなってしまった。むしろ、もうこれ以上下らないでくれと祈るばかりになってしまった。
かくして、船原峠は尾根伝い道路の底にあった。
そしてその更なる下を国道136号西伊豆バイパスの船原トンネルが貫いていた。
いよいよここから西伊豆スカイラインのはじまりである。
国道136号への連絡路と交差すると、道路は上りに転じた。そして上り坂はすぐにその斜度を上げ、僕からスピードを奪った。ここまで国士峠、風早峠と上るたびに息も絶え絶えに陥ったメーターひと桁生活が再びはじまった。
伽藍山、達磨山と立て続けに山があるが、伽藍山は達磨山の南側に位置し、標高も低いので、一度下ってまた上り返すということもない。達磨山まではただひたすら上るのみだ。
厳しい上りは達磨山に向かって休むことなく続いた。かつて有料道路だった道らしく、遠く景色の望める場所に駐車スポットがいくつか設けてあった。僕の上がらなくなった足でこの道を進んでいくには、それら駐車スポットすべてで休む必要があった。自転車から降りて熱くなった脚を冷まし、乱れた呼吸を整えなくてはならなかった。
なんてすごい道の連なりなのだろう
何箇所か点在する駐車スペース
達磨山に向けて道は続く
達磨山を過ぎると、今度は戸田(へだ)峠へ向けた下り坂になる。
下りは寒い。標高900mの伊豆の高原地帯の空気は冷たかった。
戸田峠は修善寺からやってきた県道18号との交点である。
今日の目的は達した。
気持ちの高まる道だった。
それだけに体力を残せずアプローチしたことが悔やまれた。もう少し全体を見た計画とペース配分をしなくちゃためだと思った。そのためにはコースを引いたとき、きちんとコースプロフィールを確認するべきだ。メインディッシュがおいしくいただけなくなってしまうのならペース配分に基づくコース変更だって考えるべきだった。
とはいえ楽しんだ気持ちいっぱいで帰路に向かうことができる。
戸田峠からそのまままっすぐ、真新しいトンネルに向かう道がある。
トンネル入口に役に立っているのか立っていないのかよくわからないバリケードがあり、気持ち車の進入を防ぐようにしているが、この道で西浦の平沢に下ることができる。道としては途中まだできていないのだろう、細い林道を経由することになるけれど、道は通じている。その途中区間の状況でおそらく車をあまり通したくないのだと思う。
しかし今日は、ここまで走ってきた西伊豆スカイラインの県道127号に敬意を表し、県道127号で西浦へ下ることにした。
県道127号は戸田峠から県道18号を戸田に向けて数キロ下ったところから再び分岐する。
そんなわけで県道18号を戸田に向けて下る。
道端に11%と書かれた警戒標識が何度も現れた。そんなにきついのか、こちらから上らなくてよかったと胸をなでおろしながら下った。警戒標識は続き、一度は12%のものも現れた。
こんなに下ってて、曲がるべきところを見失っていないだろうかと思うほど進んだところでようやく県道127号の分岐が現れた。ずいぶん走った気がした。
下ってきた道を右折し県道127号に入ると、すぐさま上り坂になった。
正直これは予想外だった。
さっきの戸田峠から真新しいトンネルを抜けて西浦平沢に抜ける道は、かつて走った記憶では下り一辺倒だったのだ。だから同じような経路を取る県道127号にまさか上りがあるとは思っていなかったのだ。
そしてこの上りも決して楽なものではなかった。仕方ないと思いながらも長くは続かないだろうと考えたのだが、それも打ち砕かれた。いや、もしかしたらそれほど長い上りではなかったのかもしれない。でも僕の残されていない体力には上り坂がそこにあるだけでもう長いも短いもなかったのだろう。
やっと、頂点と下り返しが見えた。そこには「真城(さなぎ)峠」の標識が掲げてあった。
峠だったのだ。まさかこんなところにまで峠があるとは思わなかった。これもまたコースを引いたときの情報収集不足の露呈だった。
でもこれでいよいよ終わりだ。
道を下っていくと、正面に内浦湾と淡島が見えてきた。標高も400mを切れば寒さもなくなった。やがて交通量も多い海岸線の道に出た。僕は疲れた体を支えることがやっとの腕と、まったくまわることのない脚にがっかりしながらも、沼津駅に向かって海岸線の道をサイクリングした。
まさかこんなところに峠が……の真城峠
沼津駅
ところでこのコースにいくなら、補給は余裕を持って用意するのがいいと思う。
実際、県道127号戸田峠から船原峠、県道411号風早峠に至るまで、コンビニや商店はおろか自販機もなかった。飲み物をあまり飲まないと人から言われる僕ですらボトルが空になってしまった。とはいえボトルを予備に持って走るのも何なんで、この道に入るできるだけ直前に飲み物を調達してボトルを満たしておくのがいいかもしれない。
同様に食べ物も小さなものを忍ばせておくのがいい。
それとトイレもなかった。展望用の駐車場所は何箇所かあったけれど、いずれも駐車スペースが設けられているだけでトイレすらない。
とはいえ、西伊豆は本当にいい道ぞろいだ。
今日の西伊豆スカイライン然り、海岸線の道然りだ。
ならそれだけに特化したこんなコースだっていいんじゃないかって思った。
西伊豆超満喫ルート
でも今日より長い110km。
坂も相当しっかりあるがゆえ、体力も必要だろうからまず走れる体がないとだめだね。