細尾峠の旧道から国道122号に合流し、下り基調の道を快調に走ってきた。道路は神子内川に沿い進んできたが、いよいよ渡良瀬川本流となる。足尾の街だ。
交差点で日光方面からやってきた国道122号は左に折れる。まっすぐ進むと足尾の駅、右に曲がると間藤駅──わたらせ渓谷鉄道の終着駅だ。
僕はこの先粕尾峠に向かうつもりでいたので交差点を左折するべきだったのだが、青看で間藤駅の文字を見た途端、急に終着の間藤駅に興味が湧いて進路を右に取った。地図を見る限りそれほど距離もなさそうだった。
わたらせ渓谷鉄道はもともと国鉄足尾線で、足尾銅山からの貨物輸送が主だったことなど、出てくる名前は足尾ばかり。おかげで終着駅も足尾駅かと思いきやもうひと駅ある。それが間藤駅。
間藤駅自体も旧足尾町にあったわけで、これほどまで知名度の薄い終着駅もなかなかない(と勝手に思い込んでいる)。
実際に間藤駅はすぐだった。
洋風な山小屋でも思わせるような駅舎がぽつんと道端にある感じだった。ありがちな終着駅のようにポイントで分岐された線路が広がっていることもなく、ただ単線の線路一本にホームが一面あるだけだった。駅スペースの広がりがないので駅舎だけがぽつんと見えたのだ。
自転車を置き、駅舎に入ってみた。およそ一時間に一本の列車がやってくるが、単線のホームに入ってきて折り返していくだけなのだろう。ホームに出てみると草に覆われそうな車止めがここで終点であることを寂しく示していた。
間藤駅
単線一本のホームと車止め
駅前には足尾から間藤にかけた観光地図があった。その地図によるとわたらせ渓谷鉄道の線路を表す線が間藤駅から先にも延びている。
そういえば僕のナビの地図でも同様に線路を表す線が引かれている。
急にこの線に興味を持って、さらに先に進んでみることにした。
帰ってから調べてみたことを加えると、かつて足尾銅山からの貨物を輸送する線路がこの先まで延びていた。そのくらいは間藤駅の地図を見た時点で想像はついたのだが、廃止された線路がなぜいつまでも地図上に表されているかということだ。どうやらこの区間は廃止ではなく、営業を休止しているという扱いのようだ。
間藤駅をあとにするとすぐに踏切の警報機があった。道路と交わるレールは撤去されていたが、その前後は錆びたレールがしっかりと残っていた。その先にはガーダー橋。休止とは言え事実上廃線の状況であるわけだから、これだけの遺構があれば立ち入ってみたくなるのはわかる。それゆえか線路に入れそうな箇所には厳重にバリケードが作られ、人の侵入を拒んでいた。
路盤の先を追うようにしばらく先まで進んでみた。自転車を止めては線路を眺め、橋を眺め、満足して戻ってくると間藤駅に人がたくさんいるのが見えた。どうやら列車が到着したようだ。
警報機がしっかり残った踏切跡
その先に続く鉄橋
間藤駅にある観光地図を見れば、間藤周辺にも、その先銀山平という場所に至り、見て回れそうなところもありそうだった。何よりその銀山平という場所へ向かう道が魅力的に思えたり。コースを変えてそちらに向かってしまおうかとちらり思ったが、この足尾線の廃線跡にしたって事前に知っておくことがあればもっと楽しめたかもしれない──そう考え、ある程度このあたりの地理を調べてから訪れることにしようと、間藤駅をあとにした。
足尾から県道15号に入り、粕尾峠に向かう
楽に登った細尾峠日光側に比べて、ふつうにきつい。あっという間に息が上がり、あきらめてゆっくりゆっくり上った。僕を抜いていくのは車よりもオートバイが多かった。とはいっても本栖みちのように100km/h近く出ているのではと思わせるスピードと爆音を残していくレーシングバイクではなく、みな緑のなかの峠道のカーブをひとつひとつ楽しんでいるようなツーリングバイクのようだった。
同じつづら折でも粕尾峠の坂はきつい
お腹がすいてきた。
朝5時前に起きて食パンを一枚、朝の東武電車のなかで蒸しパンをひとつ食べたのだけど、11時過ぎにしてもう空腹を感じはじめた。のども渇いた。ボトルのなかは底を尽きそうだった。
つづら折が終わりまっすぐな道になると峠にたどり着いた。粕尾峠だった。ここも「峠」を表すものは何もない。きょうの峠は細尾峠といい、上ったぞ、の目印となるものがない。ただ上りが下りになっているだけだ。
粕尾峠
峠は三叉路になっている。左に向かう道に行けば古峰ヶ原から古峯神社を経て鹿沼へ抜ける道となる。コースとしては魅力的だけど、いま目の前にある急激な上り坂を見たらその気も失せる。
まあもともときょうは栃木へ下ろうと思っていたので、このまま県道15号で下っていくことにする。
県道15号は足粕道路などと呼ばれていたらしい。
足粕道路竣工記念
道は下り基調なのに、一向に気力が出ない。お腹もすいてのども渇ききっていた。ボトルのなかはすでに空、ちょっとした食べ物も一切持っていない。
山のなかには自販機もないから、飲み物を飲むにも街まで下りるしかない。上粕尾の集落まで下りてやっと自販機を見つけ、ジュースを飲んだ。
そうだ牛丼を食べよう。
確か栃木の環状道路ぞいにすき家があった。そこまで行こう。
栃木に抜けるには、粟野まで下って都賀まわりで行く方法、大越路を越えて栃木へまっすぐ抜ける県道37号を走る方法。下りから平坦基調なら前者、距離なら後者──。
距離を取った。大越路を越えなくちゃいけないので上りがある。でも空腹の無気力にはかなわない。
加えて、旧道趣味者としては当然大越路トンネルではなく旧道を選ぶべき──なのだけど、そこはそれ、空腹無気力ゆえ(ハンガー・ノックなどというほど格好いいものでもない)最短距離のなかの最短距離、トンネルを取った。
大越路トンネル
上を交差していくのは旧道大越路峠
大越路を越えてからの下り10数キロがしんどかった。やっぱり食べないとはじまらない。
すき家に着くのがやっと、という感じ。
牛丼の大盛りを食べ、新栃木駅から輪行した。
ああここまで長かった……
輪行でおつかれさまモード