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    • 2017.12.04 Monday
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    ドンベイ峠、新道峠、旧芦川村(その2)

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      (その1からつづく)





       御坂山地周辺の道路にはあまり詳しくなかった。
       御坂みちこと国道137号その御坂トンネルと、旧137号の山越え旧御坂トンネルでの御坂峠は知っていたけれど、それ以外の道は知らなかった。確か甲府のほうからやって来て精進湖へ抜ける国道があったようなおぼろげな記憶があるくらいだった。
       だから今回、ここ新道峠に来るのにあたって調べて道をいくつか知ることができた。御坂みちから旧芦川村を結ぶ林道、蕪入沢上芦川線。甲府から鳥坂峠を越えて芦川へやって来る県道36号。この県道36号は芦川で向きを南東から西へくるりと変え、旧芦川村内を貫いて上九一色から市川大門の芦川駅へ向かうルートを取る。甲府から右左口峠をトンネルで抜け、上九一色の古関を経由して精進湖に向かうのは国道358号。新しいところで芦川村の県道36号から分かれ──それはちょうど県道36号が南東から西へ向きを変える地点だ──長い若彦トンネルで御坂山地を一気に貫き、河口湖へ下る県道719号。ほかにも林道で大窪鴬宿線や黒坂里道、その両林道をつなぐ名所山林道などなど。調べていくと名前を聞き場所を想像するだけでわくわくするところが目白押しだった。

       新道峠へ来るために入り込んできた蕪入沢上芦川林道、そこから分かれた枝線もまた林道で、水ヶ沢林道と言った。
       僕らは新道峠から登山道を歩いて止めていた自転車に戻ると、2、3キロばかりの水ヶ沢林道を下ってもとの蕪入沢上芦川林道との分岐点ヘ帰ってきた。富士山がまったく見えなかったとはいえ、目に飛び込む河口湖や遠くの山中湖をながめて気をよくして、おかげで途中で食べた軽食もすっかり消化してしまい芦川村への下り坂を急ぐことにした。
       しかし再び蕪入沢上芦川林道に戻るとそこはそれまでと同様のセメントひび割れ舗装、石畳の続く道だった。スピードがまったく出せないだけじゃなく、ブレーキはうまくかけられないし、手に伝わる振動もすさまじかった。あまりに身体への負担も多いものだから果たしていつまで続くのだろうと不安になり始めたころ、その荒れた路面は終わった。ちょうどすずらん群生地への入り口のあたりだった。
      「お腹すきましたねえ」と僕が言い、「そうですね、下りて食べましょう」とUさんが言った。きれいなアスファルト舗装に変わり、順調に坂を下り始めた。

       集落に出たようだ。
       久しぶりの人家を見てそう思った。何時間ぶりだろう、蕪入沢上芦川林道のあいだ人家はまったくなかった。そして集落にはうわさに聞きしかぶと造りの屋根が並んでいた。狭く急峻な峡谷の地形に家を建て畑を造りそのすき間を縫うように道があった。どこか懐かしい、会津の山あいで見かける風景を思い出した。「コーヒー」──Uさんが止まった。僕もあわてて後ろでブレーキをかけた。「いま、コーヒーってありましたよ」
       僕はUさんの言葉に下って来た道を振り返るように見た。
      「あの上にありました」とUさんは180度曲がったヘアピンカーブのうえを差す。
      「戻りましょう」僕らはUターンして坂を上り、かやぶきの屋根を乗せた古民家に立ち寄った。

       縁側でコーヒーを飲んでいるふたりがいる。僕らは古民家の太い柱のひとつに自転車をくくり付け、がらがらと音を立てる引き戸を開けて中へ入ろうとした。すれ違いざまに中から女性が出てきた。僕はてっきりここの店の人かと思い、「自転車をここに置かせてもらってもいいですか」と聞いた。「ええ、大丈夫ですよ」と彼女は答えた。しかし彼女はここのお店の人ではなかった。


      (かやぶき屋根古民家の店)


      (縁側でコーヒー)


       縁側でコーヒーを飲んでいたカップルはちょうど席を立つところで、店のなかに声をかけた。その声に呼応して初老の男性が顔を出した。親しげに話している。地元の客だろうか。
      「ささ、なかに入って」さっきの女性が言う。「なにか食べるものはありますか?」と僕は聞いた。そのときはまだ僕は店の人だと思っていたから。
      「食べるものと言ってもねえ、こんにゃくとワッフルぐらいかしら。ワッフルは美味しいわよ。あとコーヒー。コーヒーも美味しいわ。なかに入ってあいている席に座ってね」
       その言葉に促されて僕とUさんがなかに入るとそこは土間だった。女性は入り口から「じゃあまた来るね」と初老の男性に声をかけた。なるほど客だったのかとこの時点で気づく。
      「いらっしゃい。どうぞ好きなところに座って。広くもないけれど」と、初老のマスターは僕らをなかに案内した。土間で靴を脱ぎ部屋へ入る。一角には囲炉裏があって、畳にテーブルが置いてある。そんな部屋だ。僕らはテーブルについた。
      「ようこそいらっしゃいました。どうぞまずはお水を飲んで。お水、美味しいですよ」とグラスを置いた。
      「なにか、食べるものはありますか?」と僕は聞く。
      「いまはこんにゃくくらいしかなくてねえ」
      「ワッフルは?」
      「いまちょうど仕込み始めたところでさ、一時間くらいかかっちゃうんだ」
      「そうなんだ、それは残念……」とはいえなにも頼まず手持ちぶさたにしているわけにもいかないから、「とりあえずコーヒーをいただきます」と言った。Uさんも一緒にコーヒーを頼む。
      「そうだ、朝採ったトウモロコシがあるんだ。茄でてあげよう」
       ほどなくしてひとりの男性客。囲炉裏に腰を下ろす。会話からするとここに来慣れた常連さんだ。
       コーヒーが運ばれてきた。美味しい。コーヒーが飲みたかった。すっと入ってくる。いきおい、ひと息に飲んでしまいそうで一度カップを置いた。
      「はーい、トウモロコシ」と小ぶりなそれを置く。空腹の僕はすかさず手に取って何粒かむしり、口に運んだ。甘い──。いつのまにかむしるのをやめてかぶりついていた。
       縁側にはふたり、地元農家のオジサンだろうか、犬を連れて散歩の途中に立ち寄ったようだった。
      「はいよ、スイカ」オジサンはマスターに手渡す。「ああ、すみませんね、いただきます」とマスターは受け取った。その数分後、「はい、おすそわけ」の言葉とともに僕とUさんの前に切られたスイカが置かれた。


      (コーヒー、トウモロコシ、スイカ)


      (縁側)


       すっかりくつろいでしまった。時間は午後4時になろうとしている。マスターはコーヒー以外のお代はいらないという。恐縮している僕らから笑顔でコーヒー代だけを受け取る。入り口の引き戸を開けると西側の山の斜面がもう影になっていた。自転車を用意しながら縁側にいたオジサンふたりと会話を交わした。御坂からドンベイ峠を越えてきたんだと言うと驚いている。自転車じゃとてもそんなところには行けねえと笑顔で言う。自転車の用意ができると、マスターから、オジサンふたりから、気をつけて、楽しんで、と背に声を受けた。

       僕は今日県道36号でこの旧芦川村の集落をめぐってみたいと考えていた。そして旧芦川村の風景は素晴らしかった。走っていることがいちばん楽しい──これが自転車での最高の魅力だ。そこにいること、そこを駆け抜けることでその土地その土地の魅力を全身で受け止める。これを受け止めるには自らの感性をすべて働かせなきゃならない。それがいい。目で見て肌で感じ、生活や作業の音や人々の会話の端切れ、緑や風や食事の準備の匂いなどが付加されればよりいっそう記憶に深く刻まれる。僕はここを自転車で走る悦びを感じた。
       ──走ることが楽しいと、写真が増えないのだけど。


      (芦川沿いを下っていく県道36号)


      (旧芦川の点在する集落)

       県道36号をさらに下り、旧上九一色村(現:甲府市)に入るとほどなくして国道358号と交わる。ここで僕らは進路を南に取った。国道358号は上り。ここから精進湖に向けておよそ350メートル上る必要がある。全長1キロ超の精進湖トンネルを越えると、眼前に精進湖が広がった。
       日はすでに西の山の向こう側へ消えていた。空はまだ明るい。山あいの夕暮れの独特の風景だ。有数の観光地富士五湖は日中こそ派手で華やかな印象があるけれど、この時間は高原の夕暮れの寂しさを覚えさせた。国道を行く車は多いが人影はほとんどない。岸に係留されたボートが一日の終わりを感じさせた。

       湖畔で見かけたコンビニエンスストア。今日一日走っていつぶりだろう。
       パンをふたつばかりとホットコーヒーを買った。店の前のベンチで湖を眺めながら食べた。空が少しずつ明るさを失っていく。
       河口湖まであと20キロ弱。さあ行こう。


      (精進湖トンネル)


      (夕暮れ近い精進湖)


      (河口湖到着時はすっかり夜だった)

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