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    • 2017.12.04 Monday
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    菜の花・さくら・鉄道(3) ──房総私鉄沿いサイクリング──

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       大多喜を出発してから全般的に坂基調ではあったけれど、おそらくこの上総中野駅から養老渓谷駅のあいだが最も上らなくちゃならない区間かもしれない。じっさいここまで鉄道に沿うように走って来たけれど、この区間はそういうわけにいかない。線路のそばに道がないから。ルートはふたつで、ひとつは小湊鉄道に沿いながら北に進路を変えて丘陵部を越える県道32号。養老渓谷駅の先で合流するので駅に行くには戻る必要がある。もうひとつは国道465号でいったん鉄道から南にそれ、清澄養老ラインの県道81号に入り養老渓谷沿いに北上し駅に出るルート。南回りのルートは距離が増える。Uさんの計画ルートは北から回るルートだった。
       そして道は丘陵部を越えるために上り続ける。おそらくこれまでで一番長い上り。僕らはその坂をゆっくりと越える。小湊鉄道は、この区間の路線が急峻なのか屈曲が続くのか、あるいは単に需要によるものなのか、養老渓谷から先、上総中野へ向かう列車はおよそ半分になってしまう。わずか最後のひと駅なのに。
       おのおののペースで丘陵部を越えていくと、Uさんが道端で止まっていた。
      「ここを左へ行きましょう」
       鋭角に派生した道はひどく狭くて急な坂道のうえ、荒れていた。
       道は養老渓谷への短絡路だそうだ。僕は往復がピストンルートになるよりも少しでも行きと帰りが違うほうがいいし、なによりこんな里道──里道にも満たないとも言える──がうれしくて仕方がない。
       僕はもろ手を挙げて喜んだ。──行きましょう行きましょう。横でHさんがいささかけげんな表情をする。確かにロードバイクが入っていく道かと言うと、人によっては微妙だろう。狭いので間隔をあけてばらばらに走った。急な下りと急な上りだった。
      「畑林道を思い出しました」
       と僕はUさんに言った。
      「もっと長くて荒れてますけどね」
       とUさんが答える。
       南房総にある畑林道を訪れたのは一昨年の冬。Uさんと一緒だった。このときのUさんは当然ながら小径車だった。

       養老渓谷駅前は人であふれていた。上総中野も人が多いと思ったけれどここのほうが多い。車で混雑した駐車場の脇にバイクラックがあったのでここに自転車をかけた。
       足湯有料、菜の花畑徒歩15分、トロッコ列車運転――。さまざまなキーワードが脈略なく飛び交う駅前、ぱっと見僕にわかるのは足湯だけだった。ふたりほど足を湯につけて楽しんでいる。それ以外は何のことやらよくわからない。
       Hさんが「山菜そばが美味しかった」という駅前食堂に入った。やっと昼食だ。僕とUさんがHさんが美味しかったという山菜そばを、Hさんは「気になってた」という山菜ラーメンを頼んだ。
      「SLが走っているんですよね」と箸を進めながらUさんが言う。
      「そうなんですか? ここに? 知らなかった、どこかの鉄道から機関車を買ったのかなあ」
       僕はまったく知らなかった。小湊鉄道ってそんなことをやっているのか。いすみ鉄道はJRから旧国鉄の気動車を譲り受けたり、新造車を旧国鉄気動車に似せたデザインで造ってしまったりと驚かされてばかりだったけれど、小湊鉄道も新たな試みをやっているのだ。東武鉄道がJR北海道から蒸気機関車を借り受けたように、どこかから入手したのだろうか。
       食事を終えて食堂を出た。山菜ラーメンにためらいがちだったHさんは全然ありだと言った。
       駅前ロータリーには駅舎から長い列ができている。
      「トロッコ列車は予約で満席です。予約をお取りでない方はご乗車いただけません」
       職員が拡声器で繰り返し言っている。ポスターを見た。なるほどこれがUさんの言うSL。いわゆる蒸気機関車のような大きな機関車ではなく豆汽車のようなちいさな機関車がこれまたちいさな客車を牽いている写真。客車は小湊鉄道のカラーに塗られている。この機関車はどうしたのだろう?
       せっかくだから見ようという話になった。ダイヤではもう来る時間なのだけど多少遅れているという。10分少々待って入ってきた列車は伊予鉄道の路面電車線を走る坊っちゃん列車を思わせた。



      (豆汽車が牽くトロッコ列車があらわれた)


       養老渓谷駅から坂を上って、上総中野から走ってきた県道32号に戻った。また鉄道線路に沿って進む。
       数分走ると右手にたくさんの駐車車両、左手にたくさんの人がいた。自転車を下りてみてみると、左手の見下ろす場所に小湊鉄道の線路とそれを覆う一面の菜の花──菜の花畑がそこにあった。
       さっきのトロッコ列車は養老渓谷を出発してもうすぐ来るはずだった。周囲はみなカメラを出してい準備をしている。
       菜の花畑には散策できる道がつけてあるようで多くの人がそのなかを歩いていた。畑のなかに行ってみたいけど、そこまでのアプローチの道がわからないのと、行っていたらトロッコ列車に間に合わないだろうと思い、やめた。
       そしてトロッコ列車が菜の花畑に現れたのはすぐだった。何というタイミング、またもや待たずして列車がやって来た。あわてて写真に収める。
       トロッコ列車が養老渓谷の駅にやって来たとき、この機関車をどうするのだろうと不思議に思っていた。まず少なくとも方向を変える転車台はないし、前後を入れ替えるための引き回し線だってあるのかどうかわからなかった。じっさい菜の花畑に現れたトロッコ列車は推進運転──最後部の機関車が前方の客車を後押しする運転方法──だった。


      (養老渓谷駅で折り返してきたトロッコ)


       その先も各駅停車で進んだ。月崎、飯給、里見――。小湊鉄道の珠玉の駅が並ぶのでひと駅ごとに立ち寄っていった。そこは房総の内陸、丘陵部を貫く小湊鉄道は起伏に対し掘割とトンネルで抜ける。自転車で里道を行く僕らは坂道を上りちいさなトンネルで越え、また坂道を下る。
       房総の内陸には素掘り吹付のトンネルがずいぶん残っている。今回も鉄道に沿って進む里道を行く結果、それらトンネルにいくつも出会った。里道の懐かしさに高揚し、トンネルが現れると興奮した。多くは楔形に掘られ、むき出しの線をはわせて気持ちばかりの照明を点けていた。トンネルをくぐるたびに「あああー」って言いたくなる。今回はふたりが一緒にいるから言わない。
      「次、最後ですね」
       Uさんが言った。
       もう丘陵部から下ってきて視界も広い。田んぼのなかにぽつんと存在する上総久保駅に停車する列車を眺めていたらいよいよ日が傾いてきた。最後と言った駅は次の上総鶴舞。ドラマやCMで使われたことのある駅だという。
      「行きますか」


      (里道と素掘りのトンネル)



      (月崎駅)




      (里見駅)



      (ぽつんと存在する上総久保駅、ここにタイミングよく列車が来た)


       駅舎には傾いた西日がやわらかく差し込んでいた。木製のラッチが影を落とす。なるほど素敵な駅だ。駅舎もホームも、ここもほかの駅同様多くの人がいた。またここでもタイミングよく、少し待てば上り列車がやって来る。
       小湊鉄道の塗装はむかしから変わらず、もちろん菜の花にもさくらにもよく似合う。でもこの時間の傾いた夕日にもきれいに染まる。ここでもまた列車に向かってシャツター音が響いた。この列車も満員だった。僕らは最後の立ち寄り駅にしようと考えたが、列車にしてみれば途中駅のひとつ。わずかな停車時間で扉を閉め、すぐに発車した。走り出した列車の乗務員室から身を出してホームの確認をする車掌が、一瞬僕にちいさな会釈をしたように見えた。──ような気がした。このヘルメットの三人組は今日何度も見たなと思われたかもしれないし、ただの僕の勘違いかもしれない。僕も軽く頭を下げて返した。


      (線形も美しい上総鶴舞駅の構内)



      (傾いた日を受け入線する)



      (ラッチと差し込む日が美しい木造駅舎)

       さあ、僕らも五井へ帰ろう。


       ※小湊鉄道トロッコ列車の機関車は、かつて在籍していた蒸気機関車を模して作られた新造車だそうです。ただし、ディーゼル機関車。

      → 今回も一緒に走ってくれたUさんのブログはこちら

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        • 2017.12.04 Monday
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        コメント
        なんと大作!

        いやー、お疲れ様でした。
        久しぶりの輪行部活動、楽しかったですね。
        ギリギリ桜にも間に合ってなによりでした。

        もうナガヤマさんのブログ読んだら、そうそう、うんそうそう、
        と大満足で、いまさら自分で書くのもなんだかなって感じです。
        一応写真だけでもペタペタしておくか。って、いつもか(^^ゞ

        SLはSL風ディーゼルだったんですね。
        そういえば、蒸気機関車独特の煙の匂いがなかったですね。

        また活動しましょう。#輪行部
        お疲れさまでした(^^)
        無理やり書いちゃった感は強いです……取捨選択していなくてすみません(^^;
        とはいえ、とても一日に凝縮されていたとは思えない盛りだくさんな旅でしたね。記憶を掘り返すだけでも大変です。それだけ満喫させていただきました。
        うっちぃさんのほうが要点もわかりやすくありますので楽しみにしていますね。

        また旅を満喫しましょう! #輪行部
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