やっと、晴れマークの付いた週末だった。
僕は三浦半島、葉山公園の駐車場に車を止め、このあと明るくなってくれるだろうという期待を込めて厚い雲の空を眺めていた。
三浦半島は時間に限りのあるときに便利だ。首都高を車で走らせれば時間もそれほどかからない。夕方までに戻らなくちゃならないとき、地元埼玉ではない気分を求めたいときにもってこいだ。
僕は車から自転車を降ろし、メーターや備品をつけていく。
GPSマップ──僕のものはガーミンのeTrex30xだ──の電源を入れ、同じように準備をする。貼ってあった付箋をはがして。
「高度がずれているようなので設定すること。葉山公園:7m」
三浦半島のルートを入れたときに貼ったメモだ。
しかし高度の設定メニューがどこにあるのかわからない。
何度も何度も探るがたどり着けない。
そのうちに僕は、「規定値設定」と書かれたメニューを選択した。
──地図が、真っ白になった。
僕のガーミンeTrex30xは英語版で、それを日本語化して使っている。ときどき怪しげな日本語が現れるけれど、気になったことはない。
規定値設定──僕はてっきり規定値の内容が確認できるメニューかと思った。そのボタンを押すと、「よろしいですか?」も「Are You Sure?」もなく真っ白になった。
工場出荷状態に戻す、に似たような初期化メニューだったのだろうか。よくわからない。が、その場で僕は途方に暮れることになる。
僕はあせって地図の有効、無効の設定を確認した。
英語版のガーミンに僕は日本地図を入れていない。僕が使っているのはネット上で入手可能なOSM(OpenStreetMap:
ここで入手可)で、ガーミンはこの地図を「バードアイ」というモードで表示してくれる。言わば地図に対するオーバーレイというところだろうか。地図データに対し、画像を重ねて表示してくれる機能だ。
そして僕は真っ白で日本の道路の記載がない、標準の世界地図を無効にし、バードアイで表示されるOSMだけを有効にして使っている。
──地図は、標準の世界地図しかなかった。OSMは消えていた。
僕はひとつしか表示されていない、標準の地図を有効にし、地図を表示した。
ルートは消えていなかったようで、道路表記のない地図の上にくねくねとルートが表示されていた。
(陸と海との境界のみの地図の上にルートのみが表示される)
僕はこのルートの屈曲だけを頼りに、半日三浦半島を走った。
城ヶ島に渡り、自転車乗りには有名な食堂、しぶき亭に寄ってみた。
あいにく僕が空腹になっておらず、ここのマグロカツ定食は残念ながら食べられないなと思った。ま、でも飲み物も飲みたいし、自販機で何か買おう、そう思って立ち寄った。
「自転車はこっち置いて」
駐車場整理をしているオジサンが案内をする。ここは駐車場の隅にバイクラックがあるのだ。
「壁に立てかけといて」
とオジサンは店の外壁を指差す。僕がまわり込むように駐車場に入ると、バイクラックには立錐の余地もなくロードバイクがかかっていた。そしてバイクラックだけじゃない、駐車場の隅、ほかの場所にもロードバイクが群になり固めて止めてあった。
そうだソフトクリームを食べよう──僕はロードバイクの数に圧倒されながら、「ソフトクリームだけでもいいですか?」とオジサンに聞いた。
「いいよ。そこに立てかけな」
僕は自転車を置くとソフトクリームを買いに行った。
「いやあ今日は自転車がすごいよ」
店内のオジサンがソフトクリームのコーンを手にしながら言う。このオジサンはいつも自転車乗りにサービスの一品料理をつけてくれる人だ。
「ここのところずっと週末が雨だったでしょう、久しぶりに晴れたから、もう待ち焦がれたようにやって来たね。自転車もバイクも」
「こんなに混むことはないですか」
「さすがにここまではないねえ」
言われてみれば確かに今日はたくさんのバイクに抜かれ、たくさんの自転車に抜かれた。
(しぶき亭を埋め尽くすロードバイク)
***
帰宅後、OSMを入れ直さなきゃならないなと思いながらガーミンをPCに挿した。その前に念のためバックアップをと、ガーミン本体とmicroSDを一式PCにコピーする。
それに30分以上を要した。大きいファイルがある。しかし、大きいファイルってひとつしかない。OSMだ。ということはファイル自体はガーミンに存在しているってことか?
僕はバックアップが終わると一度USBを外し、ガーミンの電源を入れてみた。
(地図が表示されるガーミン)
あるいは現地で、ただ単純に電源を落とし、再投入すればよかったってこと?
いまだに「規定値設定」のメニューの内容がわかってない……。
(今回の三浦紀行はなし。真っ白ガーミンに気を取られたのと、自転車の多さに圧倒されて、なんだかのんびり楽しめなかったからです……)
(三浦の台地を一直線に貫く京急の高架橋)